仏教用語の解説(1)大白法0969 平成29年11月16号

  授 戒


 古来より、仏教を受持する者は必ず何らかの戒を受け、持戒の誓いを立てました。それを、戒を受け誓いを立てる側からは受戒と言い、授ける側からは授戒と言います。
 授戒の場所を戒場と言いましたが、授戒の作法が形成される中で、結界を示す壇が作られたことから、戒壇と言うようになりました。

 なぜ授戒をするのか

 南山律宗の祖である中国の道宣は、戒法・戒体・戒行・戒相という戒の四科を説きました(四分律行事抄・大正蔵40-4b・律疏1-18/三大秘法義42)。
 「戒法」とは、仏が制定された戒の法、戒の内容。
 「戒体」とは、戒を受ける時、自然に命に具わる防非止悪の徳のある法体。
 「戒行」とは、戒を受けた者が戒の内容に従って持戒し、身口意の三業に実践修行すること。
 「戒相」とは、持戒の行者が威儀を成じ、徳が顕われる相。
 授戒の儀式は、この戒の四科のうち、行者の身に戒体という防非止悪の徳のある法体を宿し、持戒の誓いを深く命に刻むために行うのです。

 授戒の作法

 戒には小乗・大乗に様々な種類があり、授戒の儀式もまちまちです。
 日本における授戒の儀式は、南山律宗の鑑真が渡来し、東大寺に戒壇を築いて授戒を行ったことを始まりとし、その後、下野薬師寺(栃木県)と筑紫観世音寺(福岡県)にも戒壇が築かれました。
 これらの戒壇は、基本的に僧侶に対して、小乗具足戒(比丘の二百五十戒・比丘尼の五百戒)を授戒するために築かれたものでした。
 具足戒の授戒の作法は、三師七証を基本とします(山家学生式・伝全1-18)。
 三師とは、戒を授ける直接の師である戒和尚、戒壇で白四羯磨(戒和尚や受戒者の名前を読み上げ、三師七証の皆に授戒の賛否を三回問う)を行う羯磨阿闍梨、授戒の威儀・作法を教える教授阿闍梨の三人のことで、七証とはそれを見届ける七人の証人です。

 伝教大師の大乗戒壇建立

 奈良時代以降、僧侶になるためには具足戒を受け、僧綱という組織に入ることが義務づけられました。
 比叡山の天台法華宗の僧侶も、小乗具足戒を受け、その後に比叡山に戻ることになっていました。
 これに対し伝教大師は、実大乗たる法華経の行者が小乗戒を受けることを不服として、大乗戒壇の建立を奏請(天皇に奏上して裁可を求めること)したのです。しかし、奈良の各宗の反対に遭い、伝教大師の在世には実現しませんでした。
 伝教大師の滅後七日目に勅許が下り、弟子の義真により、円頓大乗戒の授戒が行われるようになりました。
 その授戒の作法は、戒和尚として釈尊、羯磨阿闍梨として文殊師利菩薩、教授阿闍梨として弥勒菩薩、諸証として十方の諸仏、同学等侶として十方の菩薩を勧請し、在すことを念じ、そして現前の師を伝戒の師として戒を受けるのです(山家学生式・伝全1-18)。

 戒体の不同

 小乗戒の戒体は今生一生限りで失われることから尽形寿戒、また、一生を終えれば壊れて価値がなくなってしまうことから、素焼きの粗末な器に譬えて瓦器戒とも言います。
 大乗戒の戒体は、金銀で出来た器のように、生まれ変わり、戒を破って形が損なわれたとしても、金銀の価値が残ることから金銀戒とも言われます。
 しかし大聖人は、像法以前の一切の諸戒を束ねて、
  「爾前迹門の諸戒は今一分の功徳なし」(御書1110)
と教示されています。
 末法においては、日蓮大聖人の下種仏法の意義に基づき下種本門戒を受戒し、実践しなければならないのです。

 下種本門戒とその戒体

大聖人は『教行証御書』に、
 「此の法華経の本門の肝心妙法蓮華経は、三世の諸仏の万行万善の功徳を集めて五字と為り。此の五字の内に豈万戒の功徳を納めざらんや。但し此の具足の妙戒は一度持って後、行者破らんとすれど破れず。是を金剛宝器戒とや申しけんなんど立つべし」(同 1109)
と説かれ、妙法の受持、三大秘法の受持に万行・万善・万戒の功徳を納めるので、その他の戒は不要であると説かれました(受持即持戒)。
 そしてその戒体は一得永不失の金剛宝器戒として一度受ければ破れることなく、必ず行者を仏果に導く功徳があるとされます。

 下種本門戒の授戒

 御授戒の儀式は、日蓮正宗寺院の御宝前にて行われます。そこで御本尊に具わる法即人の宗祖日蓮大聖人を戒師とし、末寺の住職を伝戒師として儀式が行われます(三大秘法義61)。
 授戒文は、@法華本門の正法正師の正義の受持、A法華本門の三大秘法の受持、B法華本門の不妄語戒の受持を誓う内容となっています。
 この中の法華本門の不妄語戒とは、大聖人が『本門戒体抄』(御書1141)に説かれた「寿量品の久遠の十重禁戒」〔*1〕の一つです。一般的に不妄語戒とは、妄語(嘘)をしてはならないという戒ですが、『本門戒体抄』では、爾前の仏が二乗作仏を説かないのは妄語罪であり、それを受持する所化の衆生も同じであると説かれます。つまり「法華本門の不妄語戒」とは、妄語・方便である爾前迹門の仏と法を捨てて、真実の仏法である法華本門の大法を受持するという意味です。
 また、伝戒師たる末寺住職と受戒者が、共に「持ち奉るべし」と称えるのは、末寺住職は、持つべきであるとの意、受戒者は持っていきますと誓いを立てる意になります。
 御授戒で下種本門戒を受けることにより、金剛宝器戒という最高の戒体を命に宿し、真の仏子として妙法受持の一歩を踏み出すことになるのです。
 世の中には、この有り難い金剛宝器戒を受けながら退転状態にある人もいます。私たちは妙法受持の中に含まれる謗法厳誡の精神の上から、すべての人たちを折伏していかなければならないのです。


*1十重禁戒とは、大乗の菩薩が必ず持つべき不殺生・不楡盗・不邪淫・不妄語などを含む十種の戒律で、破れば僧団から追放され地獄に堕ちるとされる重罪である。大聖人は『本門戒体抄』(御書1440)において、法華経本門に約して十重禁戒を説かれている。そこには、爾前経の仏は、法華経本門寿量品における真実を隠し、衆生に三世常住の生命と、真の成仏を明かさないので、妄語や殺生等、十重禁戒を犯す罪があると説かれている。本宗入信の授戒文に「法華本門の不妄語戒」の名称を挙げるのは、『本門戒体抄』に説かれる、法華本門の十重禁戒の内の一つを挙げて、十重禁戒のすべてを授ける意です。

 今号より毎月16日号で「仏教用語の解説」を掲載いたします。
 日頃の御書の拝読、お寺での御法話聴聞、また折伏・育成に役立ててください。


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