仏教用語の解説(5)大白法0977 平成30年03月16号
  四悉檀


 四悉檀とは

 四悉檀とは、竜樹菩薩が『大智度論』において仏の教法(説法)を四つに分けて説明したものです。
 天台大師の『法華玄義』には、悉檀の言葉の意味について、
  「悉の言は遍なり、檀は翻じて施と為す。仏、四法を以て遍く衆生に施す。故に悉檀と言うなり」(法華玄義釈籖会本上ー119)
と説明しています。
 すなわち、「悉」とは遍くすべてに及ぶの意、「檀」とは施すの意であり、悉檀とは仏がすべての衆生に対して利益を施すこと、またその方法を意味します。
 仏は衆生を導くために方便を含むたくさんの教えを説かれましたが、それは、仏が四悉檀を用いて法を説いたからです。
 四悉檀とは世界悉檀・為人悉檀・対治悉檀・第一義悉檀の四つです。
一、世界悉檀(楽欲悉檀)
 世間の衆生の望んで欲するところ、人々の心に従って法を説いて歓喜させ、利益を与えて導く方法
二、為人悉檀(生善悉檀)
 各各為人悉檀とも言い、仏がそれぞれの衆生の能力・性質などに適した法を説き、衆生の善心・善根を増長、または生じさせて導く方法
三、対治悉檀(断悪悉檀)
 間違った考えを改めさせて、煩悩や悪業に応じた方法によって悪を断じて対治すること。衆生の三毒〔*1〕を対治させるために、貪欲の者には不浄観、瞋恚の者には慈悲の心、愚癡の者には因縁等を説いて観じさせること
四、第一義悉檀(入理悉檀)
 前の三つが段階的な化導方法であるのに対して、第一義である真実の法を直ちに説いて、衆生に真理を教え悟らせること世界・為人・対治悉檀の三つは、第一義悉檀へと導くための段階的な方便の化導であり、厳密には真実とは言えません。『大智度論』には、仏が種々の法を説くのは、第一義悉檀を説くためであると示されており、最後の第一義悉檀が最も重要になります。

 摂折二門

 摂折二門とは摂受門と折伏門のことです。
 摂受は摂引容受の義で、それぞれの機根に合わせた教えを説き、相手の誤りを直ちに破折せずに、次第に誤りを破して真実に誘引する方法です。
 折伏は破折屈伏の義で、邪義を許さず、直ちに悪法を破折して正法に帰依させることです。
 四悉檀を摂折二門に配すると、世界悉檀・為人悉檀の二つが摂受門、対治悉檀・第一義悉檀の二つが折伏門になります。
 天台大師は『法華玄義』に、
 「法華は折伏して権門の理を破す」(法華玄義釈籤会本 下ー502)
と説かれており、法華経は唯一の真実の教えであるため、法華経を説くことは必ず爾前権教を破折する折伏の化導となります。
 しかし正法・像法時代の衆生は、過去世に妙法との下種結縁がある本已有善の衆生であり、その場合には法華経文上以下の熟脱の教えによって段階的に導くという、摂受を用いられました。
 総本山第二十六世日寛上人は『末法相応抄』に、
 「末代は本未有善の衆生にして是れ下種の時なり、故に世界・為人を廃して退治・第一義を立つ。宜しく諸宗の邪義を破して五字の正道を開かしむべきが故に、末法に於ては摂受門を捨てて折伏門を用うべし」(六巻抄 128)
と、正像時代とは異なり、末法の衆生は過去世において妙法の下種結縁がない本未有善の衆生ですから、邪義邪宗を許すことなく折伏を行じ、本因下種の妙法を下種すべき時であると説かれています。

 時機に適った折伏行

 末法において、正法弘通のためには、折伏を行じて邪義邪宗を破折しなければなりません。
 しかし、折伏相手に対しては、ただやみくもに破折するだけでは正法の道理に目覚めさせることはできません。
 どんな事情があるにせよ、きちんとした仏法の道理を説いて聞かせ、最終的には謗法を廃して、真実の三大秘法の仏法に導き入れることが大切です。
 こうした点から日蓮大聖人は『太田左衛門尉御返事』に、
 「予が法門は四悉檀を心に懸けて申すなれば、強ちに成仏の理に違はざれば、且く世間普通の義を用ゆべきか」(同 1222)
とも仰せられています。
 つまり折伏を大前提としながら、その上に四悉檀にも心をかけ、その時々に応じた弘教の方法を用いていく必要があります。
 末法の日蓮大聖人の仏法の第一義悉檀とは、三大秘法の受持を説き示すことです。大聖人が「四悉檀を心に懸け」と言われる意味は、その第一義悉檀に入らしめるために、世界・為人・対治悉檀を用いるということです。
 世界悉檀とは、世間に迎合することではなく、第一義たる三大秘法の受持を示しながら、世の人々が望み、喜ぶところにしたがって利益を与えることです。
 為人悉檀は本来、摂受門に配当される弘教方法ですが、折伏の際に用いることもあるでしょう。
 また、折伏相手にこれまでの信仰を改めさせるのは容易なことではありません。その場合、三大秘法の説示を前提としつつ、為人悉檀を用いて相手の考え方を見極め、徐々に正法を説くことが必要な場合もあるでしょう。
 対治悉檀は、まさに邪義邪宗の謗法を直ちに破折して正法へと導くことです。
 世間の人々に三大秘法を受持せしめるために、世界・為人・対治の三悉檀を適した形で用いていかなければなりません。
 我々は、時に適した折伏行をもって正法広布に精進することが肝要です。本門の本尊に対し信心をもって題目を唱え、そしてより多くの人への折伏に励み、広布に向かって邁進してまいりましょう。


*1三毒
 貪瞋癡の三つの煩悩のこと。この三つは、衆生の善の心を最も害す根元の煩悩であることから、三毒と言う。三毒は、地獄・餓鬼・畜生の三悪道の境界を表わしている。つまり、貪欲は自分の欲するものに執着して貪る心で、餓鬼の生命を言う。瞑恚は自分の心に違うものを瞋る心で、瞋りは他人に苦を与えるので、それが業因となって来世には自らが地獄の報いを受ける。愚癡とは、道理に迷う愚かな心で、本能的に動く畜生の生命を言う。

 次回は、「娑婆即寂光」につ いて掲載の予定です。


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